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「ブレないと書きやすい」という発見、ゼブラ「ブレン」はこうして誕生した

ゼブラ 研究開発本部 商品開発部の瀬川陽介氏

「ブレない」という新しい視点

 昨年、尖った新製品を多数リリースしたゼブラ。暗いところでも筆記ができるライト付きボールペン「ライトライト」や、キャップにダンボールを開けるオープナーを付加した「マッキーワーク」など、「文房具が使われるシーン」に気を配った新しい目線の商品が目立つ。そんな2018年の締めくくりに、ゼブラが発売したのは、意外にもシンプルなボールペン「ブレン(bLen)」だった。

 わかりやすい新機能を持った文房具ではないが、ブレンはまったく新しいタイプのボールペンだ。特徴は「ブレない」こと。筆記時の振動を抑制することで、筆記しやすくなるという発見に基づいた商品なのだ。発売から間もなく「ブレない」というキーワードがSNSで話題になり、早くも人気商品としての地位を確立しようとしている。

 ゼブラ 研究開発本部の瀬川 陽介氏へのインタビューを通じ、開発の経緯や、発売以降の反響などを、開発者ならではの視点で語ってもらった。

発売後からSNSで大反響!

発売後からSNSで大きな反響が起こったブレン

ーー「ブレン」の発売からおよそ1ヶ月半ですね。反響はいかがでしょう?

発売前、「ブレン」のコンセプトは、切り口として新しい反面、言葉にしないと気づきにくい部分があるかも、と心配していたんです。どこまでユーザーさんに伝わるかと。しかし発売してみれば、思っていた以上にコンセプトも正しく伝わっていて、書き心地に感動してくださっている方も多いようです。

SNS上では「書けば書くほどやめられない」というコメントや、「どれだけブレないか実験してみた」という動画も見かけました。嬉しかったですね。

ーーそういった反応をしているのは、どのような層のユーザーさんですか?

たくさん字を書く方や、ボールペンの特性についてよく知っている人ほど、ブレンと既製品の違いを実感してくれていると思います。商品の性質上、普段あまり字を書く習慣がない方には、魅力が伝わりにくい面はあるかもしれません。そんな方にこそ気に入っていただけるはずなので、どう広めていくか。そこは課題ですね。

ーー「ブレない」という視点は非常に新鮮です。高級ボールペンの市場だと「遊びの少なさ」「精巧な造り」が話題にされることもありますが、低価格なボールペンの市場で、このコンセプトを打ち出した経緯を教えてください。

前提として、「油性ボールぺン市場で、ゼブラ独自の魅力を持ったヒット商品を作りたい」という会社の意向がありました。まず取り組んだのが「ターゲットの選定」です。

総務省が発表した「労働力調査結果」を参照すると、近年、働く女性の数が増加していることがわかりました。それを受けて、「事務職の女性をメインターゲットとした油性ボールペン」の開発に取り組むという大まかな方針が決まりました。

ーーターゲットから決まったんですね。

はい。社会人女性を対象に「ボールペンを買う際に重視する点」についてアンケート調査を実施したところ、ストレスなく書けることにこだわる人が多いことがわかったんです。

開発チームで「書いているときのストレスとは何か」というテーマで議論をすると、滑らかすぎて滑ってしまうことや、筆記時に音が鳴ることに、ストレスを感じているという意見が多くあがりました。共通点を探してみると、「ペンの振動」という要素が浮かび上がってきたんです。

ーーなるほど。

これまでの商品開発では前面に出てくるテーマではなかったものの、ゼブラの研究チームで「振動」を専門に研究している者がいたことを思い出したんですね。

ーー面白い展開ですね。

その者に「いかに振動がペンの書き心地に影響するか」という説明を受け、テーマがしっかりと固まりました。

ゼブラ式の命名を踏襲

ーー「ブレン」という名称は、商品の性質を端的に表現していると思うのですが。早い段階で決まったんですか?

方向性が決まったあと、「デスクに紙1枚でもストレスなく集中して書ける、筆記振動を制御したボールペン」という、より具体的な方向感が決定したタイミングがあったんですね。その手段として「先端のガタつきを抑える」「低重心化して振動を抑制する」という案が上がり、名称を考えたのは、その頃だったと記憶しています。

ゼブラは、個性的な名前の商品が多いんですよ。「マッキー」ですとか……サラサラ書けるから「サラサ」とか。ゼブラらしい名前付けを継承したいと思っていました。「ブレないペン」から「ブレヌ」という候補もありましたね。「ブレヌ」は「ちょっと固すぎるよね」と見送りになりましたが。

当初から海外展開も視野に入れて開発していたため、コンセプトが伝わりやすいだけでなく、外言語でも発音しやすい「ブレン」は、最高の名称だと思っています。

試作しすぎて「書き心地とは何か?」とまで考えた

ーー実際の開発過程では、どのような点に苦労されたましたか?

「どれくらいの重さをどの位置に加えれば心地よい低重心を実現できるか」「先端のガタつきを抑える為のパーツとして最適な素材は何か」など、コンセプトの性質上、気を配るポイントが特殊でした。わずかなさじ加減で「書き心地」が変わってしまったことにも悩まされましたね。

従来のボールペンには必要のなかったパーツが4点も組み付けられている

ーーたしかに、パーツ数が多い分、気を配るポイントが多いですよね。

そうですね。既存のボールペンよりはだいぶ多いと思います。ペンをノックしたあと、ノック部分が元の位置に戻らないよう内部で固定するための「リターンスプリング」という部品が入っていたり。これがないと、字を書く時にノック部分がカタカタと動いてしまうので、必要な部品です。

ほかにも、ペン先端部分には芯を固定するインナーパーツが入っています。このパーツは20点以上は試作をしたと思います。振動を制御できる硬さを持っているだけでなく、芯を負荷なく繰り出せることも重要なので、素材選びが難しかったですね。

その都度、試し書きをするのですが、試作し過ぎて、途中で違いがわからなくなりました。最後の方は「書き心地って、つまりどういうことなんだっけ」と社員同士で話していたり(笑)。

従来のボールペンのペン先端(左)とブレンのペン先端(右)

ーーキャップ式のボールペンだと、芯を抑える「ツメ」がグリップ部分のパーツと一体成形になっているケースもありますよね。

ブレンの場合は、それぞれの部分に最適な材質を選ぶことを優先しました。当然、製造コストも上がってしまうのですが、別パーツを採用したのはこだわりです。おそらく安価なボールペンで、芯を抑えるためだけに別パーツを搭載しているのは「ブレン」が初めてではないでしょうか。

幸い、過去に「シャーボX」という商品で、ペンの先端と芯が当たる音を消すサイレンサーとしてインナーパーツを入れたことがあったので、ノウハウもありましたし、特許も取得済みでした。それがブレンの開発過程で役に立つことは想定外でしたが、非常に助かりました。

ーー替え芯もブレン専用品ですよね?

内径は弊社の既発品と同じなのですが、外径がかなり太くなっています。芯がしならないほど、振動が抑制されることも研究により明らかになりました。

負荷をかけるとしなる従来の芯(奥)と、しなりにくいブレンの芯(手前)

ーー芯にも、ブレないための工夫を入れているんですね。

ゼブラは、機構で新しいものを生み出してきた会社なんです。「マッキー」は、単頭だったペンを両頭にしたことが、当時画期的でした。「シャーボ」は、ボールペンとシャープペンを1本のペンにしたこと。最近では、芯が折れないための機構を入れた「デルガード」など。ブレンも、機構を書き心地の改善に結びつけているので、結果的にゼブラの長所が上手く出せた商品になりました。

書くための最高の道具は「1本の棒」

ーーデザインは、佐藤オオキさんですね。

「ブレン」には「ゼブラの新しいボールペンブランド」という役割があったので、社内デザイナーでなく、外部のデザイナーさんに依頼してみたいと思っていたんです。誰が適任かと社内で議論をしていて、お名前が一番多く上がったのが佐藤オオキさんでした。

ーー佐藤オオキさんらしい、シームレスなデザインが印象的です。

佐藤さんは、「1番ストレスなく物を書けるのは、1本の指や棒」という発想を込めてくださったようです。つなぎ目のない1本の棒のようなデザインで「ストレスなく書ける」をしっかり表現していると思います。

佐藤オオキさんによる店頭ディスプレー。「ほかの商品と違うもの」であることを強調したデザインに

ーーノック部分を上から見たときに、楕円になっているのも珍しいですよね。

これは、スリムさを演出することと、従来のボールペンにはない新しい印象を与えるためなんですよ。径が比較的太い製品なので、ここが円だとボリューミーになりすぎてしまうんです。合わせて、店頭でのディスプレーも念頭に置いた形状です。

この商品に限りませんが、新しいデザインのペンも、売り場に並ぶと新しさが薄れてしまうことを、以前から課題だと思っていました。

今回は、店頭ディスプレーのデザインもセットで佐藤オオキさんに依頼し、お客さまから、製品の頭が見えるかたちのディスプレーに仕上げていただきました。ひと目で「ほかの商品と違うもの」とわかりますし、売り場でも存在感があると思います。

どうしても150円で売りたかった

ーーこう見ると、150円で販売されているボールペンには見えないですね。

正直なところを申し上げると、従来のボールペンよりも多くのパーツを使ったり、専用の生産ラインを作ったりしている分、コストもかかっているので「価格帯をあげた方がいいんじゃないか」という声もあったんです。

でも私としては、どうしてもこの価格帯で出したかった。生産ラインを増やしたり、デザインにコストがかかっていても、ほかの部分でトータルのコストを削減するために知恵を絞って、この価格が実現しています。販売価格に関する動きに開発チームが関わることは、普段ありませんが、ブレンは例外でした。

「どうしても150円で売りたかった」と話す瀬川氏

ーー低価格に強くこだわった理由はどこにあるのでしょう。

この価格帯では、他社さんが油性ボールペンの有名ヒット商品を世に出していますが、それ以降、なかなか独自のカラーを持ったヒット商品が出ていないと感じていたんです。

言い換えれば、この価格帯のボールペン市場は、飽和状態に近いということかもしれません。そんな価格帯に、新たな切り口を持ったヒット商品が生まれれば、市場は再び活性化するかもと思えたんです。だからこそ、ブレンは150円。この価格だけは譲れませんでした。

ーーこれが150円で買えるのは、まさにゼブラの努力の賜物ですね。ありがとうございました。

ブレン(ゼブラ)

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ゼブラ「ブレン」公式サイトより

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